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素敵な先輩

第2回 尊敬する女性医師とは

神奈川支部支部長  小関温子


山本纊子先生~素晴らしい先生の共通点とは?

今回「尊敬できる女性医師」について原稿を書くことになり、その基準は何かを考えてみました。先輩、同僚、後輩、私がお会いしたことのない方も含めて素晴らしいと感じる先生がいます。私自身がお話してきて感じる基準は「謙虚で仕事に能力を発揮している方」でしょうか。長年日本女医会会長と目されながら就任後わずか2年の儚い命だった山本纊子先生もそのお一人です。


溝口昌子先生との出会い

また、やはりこの方も、と思う方は皮膚科の溝口昌子先生です。先生と出会ったのは、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどを心配する世の母親たちが、アレルギー外来を標榜しているあちこちの小児科開業医、病院を訪ねて歩いている時代でした。


NHK横浜放送局東神奈川の産業医だった私は、NHK横浜放送局と至誠会神奈川県支部との共催で一般市民向けの公開健康講座を開催することを思いつき、聖マリアンナ医科大学皮膚科主任教授でいらした先生に直接お電話で講演の講師をお願いしたところ、快くお引き受けいただきました。夫の溝口秀昭先生が母校東京女子医大の血液内科主任教授でいらしたこともあり、お頼みしやすかったこともあります。


当時は珍しかった公開講座

2006年、横浜本店崎陽軒の会議室3部屋を使い、240人以上の一般市民の方々に参加していただきました。会場に入りきれずに廊下にまで椅子を並べたのを覚えています。今では一般的になっている公開講座ですが、この時代は非常に珍しかったと言っても過言ではありませんでした。


吉岡彌生賞受賞がきっかけで日本女医会に積極的に参加

さて、公益社団法人日本女医会には吉岡彌生(東京女子医科大学創設者)賞、荻野吟子(公許第一号女性医師)賞があり、全国女性医師の中から優れた業績のある方に顕彰しています。溝口昌子先生は、医学に貢献する優れた業績で「吉岡彌生賞」を受賞されました。


私の年代の頃は卒業と同時に日本女医会に入会した先生が多く、溝口先生も同様で23年くらい前から会員であったようです。しかしながら総会にも出たことがなく、受賞後は「この賞にふさわしいように努力いたします」と仰って、総会やご講演などに積極的にご参加くださいました。


男性優位な時代の教授職就任

東大を卒業し、男性に負けない業績から母校の皮膚科教授になるべき人であったにもかかわらず、当時の男性優位な校風から教授選の直前に状況が一変したようです。その後、聖マリアンナ医科大学の皮膚科教授に就任され、仕事中心の生活であったのでしょうか、定年後は夫とゴルフや旅行を楽しんでいたようです。


新井寧子先生が代役を引き受けた軽井沢セミナー

先生の体調に異変があったのは、日本女医会軽井沢セミナーでご講演していただく予定だった2009年の夏でした。直前になってキャンセルの連絡がありました。準備をしっかりされていたようで、夫には「這ってでも講演に行く」と仰ったそうです。


翌年に講演していただく予定だった東京女子医科大学東医療センター(現 附属足立医療センター)の新井寧子耳鼻科教授にお願いしましたところ、「私でよければ」と快く代役をお引き受け頂きました。お二人の御人徳に思わず胸が一杯になりました。


最後まで皮膚科医として活躍されて

その後も病気は静かに進行し、歯痒い日々を過ごされていたのだろうと思います。2013年6月中旬に先生にお電話いたしましたところ、か細いけれど優しく「先生お久しぶりね、今入院しています」と仰ったお声が今でも思い出されます。私は涙を堪えて「先生、お元気になられたらお会いしたいです」と言って、そっと電話を切りました。


7月に入り、先生が監修された皮膚科の御本が送られて来ました。悪性腫瘍と戦いながら最後まで皮膚科医としてのお仕事をされていたことに、感動すると共に、その素晴らしい歩みに胸が熱くなりました。今後医学を学ぶ多くの若き女性医師への示唆となることが世界への研鑽、向上の一環となることと信じています。先生は多くの教訓を残して2013年8月6にご逝去されました。


溝口昌子賞は女性医師へのエール

間もなく夫の秀昭先生から日本女医会にご寄付を頂きました。趣旨は「若い女性医師が今後、教授を目指せる賞に」とのことでした。早速理事会で協議の結果「溝口昌子賞」を設立致しました。この賞は東京大学医学部をご卒業され、絶対的な男性社会の中でたゆまぬ努力をされてもなかなか成り得なかった教授職を目指す女性医師へのエールと受け止めております。


男性と同じ仕事ができる職業は医者である

私の父が小学校4年の時に言われた言葉を思い出しております。今に必ず男女同権の時代が来る、能力、努力があれば男性と同じ仕事ができる職業は医者であると言われました。


日本はまだまだ女性の地位が世界から見ても低く、男女平等にはいまだに到達しておりませんが、日本女医会は必ず世界の女性医師の向上に尽力下さることと信じ願っております。


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