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【第4回受賞】女性が頑張りすぎない社会に

横浜市立大学附属市民総合医療センター 小児総合医療センター 助教 武下草生子

女性にとって、心身ともに、かつ社会的に健康な状態とはどのようなことだろうか。私自身に当てはめてみると、まず心身が健康とは言えない。私は二人の子どもを育てながら大学病院で小児科医として勤務している。いつも時間に追われて生活しており、特に朝と夕方は時間との戦いだ。朝は5時過ぎに起きて、お弁当と夕食の準備をしながら洗濯機を回す。帰宅後は夕食のしたくと片付けをし、子どもたちと話をしたり、勉強をみたりしているうちにあっという間に時間がたってしまう。休日も、たまった家事をする時間と勤務や研究会への出席等を、予定表とにらめっこしながら調整する。 少しでも時間を節約したいので移動はいつも車、運動不足は間違いない。食事も驚かれるほどの早食いだ。時間に追われてストレスもある。あまり健康的な生活とは言えないだろう。

しかし社会的な健康という面ではどうだろう。幸いなことに職場の理解と協力をいただいて、常勤でつとめ続けることができている。患者さんの笑顔やご家族との会話の中から、仕事を続けるエネルギーをもらっていると実感する。そういう点では充実した毎日が送れていると思う。 女性が心身の健康を保ちつつ社会的な役割を果たす。それは今の日本ではとても困難であるように思う。家庭を持ちながら働く場合、女性の負担は非常に大きい。家事育児全般はもちろんのこと、学校や地域との関わりなど家庭に関することはすべて、仕事の有無にかかわらず母親が担うのが当然と考えられている。親が年老いてくれば介護も多くは女性の役割となる。仕事をしながらこれらのことをこなすには自分自身の健康は二の次になるし、仕事をセーブせざるを得なくなる場合もある。

女性の有業率は年々上昇しているが、年齢別でみると、子育て時期に一旦就業を中断する割合が高いいわゆるM字カーブを描く。女性医師においても同様で、30代で就業率が低下する。少子高齢化の進む現在、女性の就労は日本の経済力の向上のために必要であるが、少子化対策のためには働きながら子育てもしやすい社会を目指さなければ意味がない。それには女性・母親が働くことを前提とした社会の仕組みを整えていくべきだ。例えば父親が平日の日中に来ることを前提にした学校行事は設定されていないのに、母親に対してはそれが当然のようになっている。行政や銀行の窓口も同様だ。われわれ医療機関も、こどもが病気になったら母親が連れてくるのが当然だと思ってはいないか。女性がストレスなく働きやすくするためには、保育施設や学童保育の充実はもちろんだが、学校行事の設定日時を見直したり、行政や銀行、病院などの受付時間を延ばすなど、変えていけることはたくさんあるのではないか。 これまでのように女性の努力だけに頼っていては働く女性のすそ野は広がらない。女性が頑張りすぎなくても、心身も、社会的にも健康な生活を送れるような社会になってほしいと思う。

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