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【第7回受賞】それは本当の女性医師だからの問題なのでしょうか?

福井大学医学部附属病院呼吸器内科・医員 門脇 麻衣子

 私が医者として仕事を始めた今から20年ほど前は、女性医師への社会の印象はあまりよくなかった。特に田舎では男尊女卑の考えが根強く残っていた。診察室の外から、「男先生(おとこせんせい)でお願いします」と言う患者さんの声が聞こえたりした。  確かに、患者さんにとってその時代は、偉そうにしている先生が偉い先生であり、その偉い先生に叱られて、患者自身の生活習慣を見直し、また、病気になったのは自分が至らなかったからだと理解した。  しかし、社会の成熟とともに、医者―患者関係が変わってきた。私の勤務する田舎では、高齢化が急速に進んだ結果、患者の急速な増加、患者、医師側の専門医志向もあいまって、医師が不足した。患者さんは病院窓口で「専門の医者がいないので診られません。」と説明され、患者側もえり好みしている場合ではなくなった。女性医師の割合も増え、それぞれの女性医師の確かな働きぶりによることも多いだろうが、女性医師に対する患者さんの嫌悪感は少なくなった。患者さんの女性医師への信頼が高まると、職場内部にも変化をもたらし、「女医だから駄目だ」という上司、同僚からの根拠のない誹謗中傷は聞かれなくなった。  今の時代、医師という職業において、実臨床で男性医師に決して劣ることはないと考える。家事・育児の分担の偏り、サポートの有無、子供の障害、介護すべき家族の有無など、それぞれの家の事情で女性医師が、当直業務や、4時間365日の緊急の呼び出し・患者説明に対応できなくても、それはその個人の能力のなさではなく、女性医師だからという理由でもなく、それを受け入れられない危機管理意識のない職場・社会の問題である。職場・社会は、問題を女性医師の増加にすり替えていないか。  問題の本質を間違えると、正しい解決に至らない。働くのに制約のある女性医師は、遠慮して働き方をセーブし、その能力を十分発揮できない状況はなんともったいないことか。スーパー女性医師だけが働ける環境ではなく、普通の女性医師が無理せず普通に働ける環境にならないと、医師の過重労働問題は解決しないだろう。  女性医師側も、女性医師だから許されるだろうということを期待してはいけない。働ける状況は個人個人によって違う。自分がどの様な形なら最大限のパフォーマンスで働けるかを正しく認識し、職場・社会に話し合いをし、理解してもらうことが大切である。どこの職場でもそうだが、何でもかんでも面倒なことはできないと言っていたらそのうち足元すくわれる。このことを肝に銘じ、人の嫌がる仕事も制約がゆるされるなら、積極的にやる姿勢をみせることである。

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