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緊急避妊薬が市販化されます


作成者:もちづき女性クリニック / 獨協医科大学医学部産科婦人科

望月 善子



 思いがけないタイミングで避妊に失敗してしまったり、避妊をしなかったことで「もしかして妊娠したかも」と不安になることは、誰にでも起こりうることです。そうしたときに妊娠を防ぐ選択肢のひとつが「緊急避妊薬(アフターピル)」です。これまで日本では医師の診察を受けて処方箋をもらわないと手に入れることができませんでしたが、今後は薬局で購入できる「OTC化(処方箋なしで薬局で購入できる仕組み)」が、2025年8月29日に厚生労働省の専門部会で了承され、来春ごろには運用されることになります。


 この流れの背景には、 SRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights:性と生殖に関する健康と権利) という考え方があります。SRHRとは、性や生殖に関して健康であるとともに、自分の意思で判断し選択する権利を尊重するという考え方で、基本的人権の一つに位置づけられています。自分のからだに関する情報を得る権利、妊娠や避妊の方法を自ら選ぶ権利、そして必要な医療や支援を平等に受ける権利―これらはいずれもSRHRの重要な柱です。したがって、緊急避妊薬を必要な時に誰もがすぐ入手できるようになることは、まさにこの権利を具体的に保証する取り組みだと言えます。

 

 緊急避妊薬は、排卵や受精、受精卵の着床を妨げることで妊娠を防ぐ仕組みを持っています。日本で承認されている主な薬は レボノルゲストレル(LNG)錠 です。世界的にも広く使われ、安全性が高い薬とされています。この薬は「避妊に失敗したあと、できるだけ早く服用する」ことが大切です。特に性交後 72時間以内 の服用で高い効果が得られます。時間の経過とともに妊娠阻止率は低下するため、できるだけ早く服用できる環境が何より重要です。


<具体的な服薬方法>

用量:レボノルゲストレル錠 1.5mgを1回服用

服用のタイミング:性交後72時間以内 (24時間以内の服用での妊娠阻止率は95%)


注意点:服用後2時間以内に吐いてしまった場合は、薬の効果が十分でない可能性があり、再度服用が必要となる場合があります。その際は薬剤師や医師に相談してください。


副作用:一時的な吐き気、頭痛、倦怠感、不正出血などが出ることがありますが、多くは数日以内におさまります。長く続く場合や強い症状がある場合は医療機関に相談しましょう。


 緊急避妊薬がOTC化されると、休日や夜間でも薬局で購入でき、必要なときにすぐ服用できるようになります。これによって「妊娠するかもしれない」という強い不安から解放され、安心して日常生活を送ることができます。これはまさに「自分の体は自分で守る」というSRHRの理念を実現する大きな一歩です。

 一方で、正しい知識がなければ効果的に使えなかったり、繰り返し利用することで本来の避妊方法を怠ってしまう危険もあります。緊急避妊薬は「日常的な避妊」ではなく、あくまで「緊急時の選択肢」であることを理解する必要があります。


 緊急避妊薬のOTC化は、女性だけでなく、社会全体がSRHRを尊重する姿勢を示すものです。当然ながら、男性の関与と責任の可視化、こうした話題への理解や知識の獲得が必要なことは言うまでもありません。安心して薬を手にできる環境は、誰にとっても心強い安全網となります。大切なのは「正しい知識と情報を持ち、必要なときに適切に使うこと」。そして、避妊や妊娠に関する決定を自分で選び取る権利を尊重することです。SRHRの理念を踏まえて、緊急避妊薬のOTC化は私たち一人ひとりがより安心して生きられる社会への確かな前進となるでしょう。


 
 
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