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非弁膜症性心房細動と新しい抗凝固薬

作成者:東京女子医科大学付属青山病院 循環器内科

島本 健


心房細動と塞栓症

心房細動(以下AF)はよく見られる不整脈の1つで、致死的ではありませんが動悸、倦怠感、運動能力の低下などの症状、頻拍や心房拍出の欠如による心不全、臓器塞栓症などをきたします。とりわけ社会的に問題になるのが脳塞栓症(脳梗塞)で、予防が重要です。 AFにおける抗凝固療法の適応について、簡単に述べておきます。

AFだけで塞栓症を起こすわけではありません。血栓形成には、血流の停滞、血管壁の異常、血液組成の異常が大きな要因となり、これは「ウィルヒョウの三徴」と呼ばれます。したがってAF時の血栓形成は、動脈硬化性疾患、高血圧、糖尿病、心不全などの合併と、加齢、性別の影響を受けます。

塞栓症の危険度を簡単に評価する方法としてCHADS2(※1)やCHADS-VASC(※2)スコアが用いられます。また、発作性AF については持続時間と血栓形成の関連は不明であり、抗不整脈薬で予防しても塞栓症は減少しません。そこで、発作性AFも抗凝固療法の対象となります。

※1 心不全、高血圧、高齢(75歳以上)、糖尿病、及び脳卒中/一過性脳虚血発作の既往の5項目を点数化し、心房細動による脳梗塞リスクを測定 ※2 CHADS2スコアをさらに細かく層別化したもので、血管疾患、年齢(65~74歳)、女性の3項目を加え、 低リスク症例にも対応

ビタミンK阻害薬

塞栓予防薬として長らく使用されているビタミンK阻害薬(以下ワーファリン)は、凝固カスケードの複数のビタミンK依存性凝固因子の肝臓での生成を抑制することで抗凝固作用を発揮します。ワーファリンの血中濃度は12時間以内にピークに達し半減期は36時間前後ですが、抗凝固作用は肝臓での凝固因子の生成能と代謝能に依存するため、生物学的に効果を安定的に発揮するには少なくとも3日を要します。

またワーファリンの使用中はビタミンKを多く含む食品、特に緑黄色野菜の摂取制限が必要ですし、ビタミンKの産生を増加させる納豆が食べられません。このように食事や肝機能の影響を受け、また治療域が狭いため、ワーファリン服用中は定期的に採血し、プロトロンビン時間やトロンボテストなどで凝固機能のモニターをおこない、適正にコントロールしなくてはなりません。

新しい抗凝固薬

新しい抗凝固薬は、血液凝固因子を直接阻害する薬剤でビタミンK非依存性です。日本では2013年現在、直接トロンビン阻害薬であるダビガトラン(dabigatran)と、活性化第X因子阻害薬のリバロキサバン(rivaroxaban)、アピキサバン(apixaban)が上市されています。

適応は、非弁膜症性AF(NVAF)です。NVAFとは、リウマチ性僧帽弁疾患でなく、人工弁および僧帽弁修復術の既往を持たないAFをいいます。弁膜症でも逸脱による僧帽弁閉鎖不全症などに伴うAFはNVAFとなります。これらの疾患において、新しい抗凝固薬は、血液凝固カスケードの最終の共通経路である第X因子あるいはトロンビンを直接阻害することにより、血栓の生成を抑制します。そのため、食事制限は必要ありません。

薬物動態学/薬力学

新しい抗凝固薬は、血液凝固因子の活性を直接阻害しますので、作用は用量、薬物濃度依存性となります。最高血中濃度の到達時間はおよそ1-3時間、半減期は7-12時間です。このためワーファリンに比べ即効性で、抗凝固作用は非持続性で凝固機能のモニターは必要ありません。臨床研究から、一日のある一定時間に血液凝固を抑制すれば、血栓予防に有効であることが解っています。

実験的にも発作性AFにおいて、血栓ができていることを示すD-ダイマーの数値は、AF発生から持続性AFのレベルに達するのに12時間かかるとする報告があり、即座に血栓が形成されるわけではないようです。

臨床試験

新しい抗凝固薬のいずれの薬剤も、ワーファリンとの比較において有効性が認められています。投与前のCHADSスコアに違いがありますが、塞栓症予防効果は同等以上です。3剤の薬物動態は似ていますが、服用回数はダビガトラン とアピキサバンは1日2回、リバロキサバンは1回と異なっています。

3剤ともワーファリンに比べ脳出血のリスクは低く、大出血も少ないのですが、ダビガトランとリバロキサバンでは消化管出血が多くみられました。アピキサバンのみが、死亡率と大出血の減少に有意差が出ています。ダビガトランは胸焼けなどの消化器症状があり、80歳以上では出血リスクが高いようです。

使用上の注意

新しい抗凝固薬では、ワーファリンに比べ服薬量や服薬間隔などの飲み間違いによるリスクは高いと考えられ、服薬指導が大切です。リバロキサバン、アピキサバンは肝代謝酵素P450で代謝され、ダビガトランは消化管P糖蛋白を介した薬物相互作用があるため、併用薬によっては用量調整が必要となります。

また、新しい抗凝固薬はすべて、腎機能(Cockcroft-Gault法GFRあるいは血清クレアチニン)による用量調節が必要です。特にダビガトランはGFR30ml/min以下の患者さんについてはデータがなく使用できません。他剤は15ml/minまで使用できます。しかしGFRは特に高齢者で変動しやすく、脱水などで低下するため、時々腎機能をチェックし用量が適切かの判断をします。血液凝固モニタリングの必要のない薬剤として登場しましたが、時々服薬2-4時間後のPTやAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)をチェックした方が良さそうです。

中和剤はありませんが出血時には投与中止で対処します。緊急を要する出血の場合は、凝固因子製剤や透析療法を考慮します。出血リスクの評価についてはHASBLEDスコアが用いられます。一方、観血的処置が必要な場合、半減期が短いため通常24時間の中止で処置できます。再開後は速やかに治療域に達します。ただし、薬物、腎機能、手術浸襲の大きさで多少調整する必要があります。

新しい抗凝固薬の登場により心房細動での抗凝固薬の選択肢が広がり導入しやすくなったことから、塞栓症の減少が期待されていますが、出血リスクを内在しているため、適応と薬物選択、用量設定をきちんと行う必要があります。



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