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禁煙補助剤 チャンピックス(一般名バレニクリン)

作成者:聖マリアンナ医科大学附属研究所 理事長 山本蒔子


ニコチン依存症と禁煙治療

喫煙は習慣や嗜好と長い間考えられてきました。しかし、タバコを止められないのは、ニコチン依存症と言う薬物依存症で病気であるととらえ、治療の必要があると考えられるようになりました。禁煙が出来ないのは意志が弱いからではありません。喫煙するとニコチンは2~3秒で脳に達し、脳内のニコチン受容体に結合します。結合によって、ドーパミンが分泌されて、快感(すっきりした、おいしい、リラックスした)が得られます。ニコチンが切れてくるとイライラが起こりタバコを吸いたくなります。この回路が強化されてニコチン依存症が出来あがります。わが国でも、2006年4月から禁煙補助剤を使った禁煙治療に保険が適用されました。保険適用のためにはいくつかの要件を満たす必要がありますが、現在、全国で保険適用の禁煙治療を行っている医療機関は12,754箇所(2011年7月)となり、禁煙治療が受けやすい環境が整いました。

禁煙補助剤の種類

約15年前からニコチンを含んだニコチンガムが使われ、10年位前からニコチンを含んだ貼り薬のニコチンパッチが使えるようになりました。3年前から新たな薬として、ニコチンを含まない、飲む薬のチャンピックスが発売されました。チャンピックスとニコチンパッチの大パッチ(ニコチンを多く含むパッチ)は医師の処方箋が必要です。どの禁煙補助剤を選ぶかは、以下を参考にして下さい。


標準禁煙治療プログラム

標準的な禁煙治療のプログラムは、12週間にわたり5回の禁煙治療を行います。たとえ禁煙が出来てもニコチンパッチやチャンピックスを決められた期間使い続けて5回通院することが、成功する要件です。

チャンピックスの作用機序

チャンピックスはニコチン受容体に選択的に結合し、弱い作動性を持ちます。しかしドーパミンの分泌はごく少ないために、快感は得られません。チャンピックスがニコチン受容体に結合していると、その後にタバコを吸ってもニコチン受容体はチャンピックスに占拠されているため、タバコのニコチンは受容体への結合がブロックされ、タバコはおいしく感じられなくなります。

チャンピックスの投与方法と副作用

チャンピックスの投与は、初め少量から行います(図3)。初めの1週間はタバコを吸っても構いません。猶予期間があることで、禁煙しやすく感じられます。本数は減らしていって、2週間目からは禁煙を開始します。

図3.バレニクリンの投与法 日本禁煙学会「救護班による被災地での禁煙治療の指針」より引用

副作用として、因果関係は明らかで無いとされてはいますが、抑うつ気分、不安、焦燥、自殺念慮等が報告されており、精神疾患で治療を受けている患者では症状の悪化が起こる場合もあります。この場合には、チャンピックスよりはニコチンパッチの選択が妥当です。最近、めまい、傾眠、意識障害などがあらわれて、自動車事故に至った報告があるため、運転を業務としている場合には投与は控えた方が良いと思われます。多く見られるのは、吐き気、胃痛、おなかが張るなど消化器症状です。耐えられない場合には、チャンピックスの0.5㎎錠を1日2回投与などに、減量して対処します。

禁煙成功のために

図4.ニコチン依存症 日本禁煙学会「救護班による被災地での禁煙治療の指針」より引用

ニコチン依存症は、身体的な依存と心理的な依存の両方からなっています。そのために患者へのカウンセリングを同時に行うことが大切です。禁煙成功のために、以下のことを患者に伝えます。 1) 禁煙開始時には身の回りにタバコは置かない。 2) 禁煙宣誓書を書いて禁煙の気持ちを強める。 3) 禁煙後は、ニコチン切れの離脱症状として、タバコが吸いたい、イライラ感、不安感、集中できない、落ち着かない、眠い、だるい等が現れる。持続は3分程度なので、対処方法(水を飲む、深呼吸、ガムやカロリーの少ない昆布等で口寂しさを紛らわす、ストレッチ、散歩、家事等の軽い運動で体を動かす)を必ず実行する。 4) 毎日の禁煙の記録をつける(メーカーが作成した禁煙手帳を利用)。 5) 服薬方法をきちんと守る。

禁煙成功率

チャンピックスはニコチンを含まないために脳血管障害や虚血性心疾患などを持つ患者にも投与が出来、禁煙治療の選択肢が拡がりました。成功率は約6割です。中断せずに5回通院出来た場合には、8割から9割の患者が禁煙に成功します。禁煙治療は医師だけでなく、看護師の参加が大変効果的です。スタッフにも禁煙治療を学んでもらい、禁煙治療を成功に導きましょう。


 

参考文献

  • 『禁煙学』日本禁煙学会編 南山堂 改訂2版 2010年4月

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