秋田大学医学部総合地域医療推進学講座 准教授 蓮沼 直子
近年、秋田大学医学部では女子医学生が4割を超えたが、医師全体でも20%超となった。また医師国家試験合格者に占める割合も平成12年から30%を超え、今後10年の間に40代女性指導医の割合は3割を超える。しかし、女性医師は30代に病院を退職し、診療所勤務や非常勤になっていることが分かっている。 今回、一生の仕事として女性が医師を続けるためのキーパーソンとしてイクボスを挙げたい。 「イクボス」という言葉は聞きなれないかもしれないが、最近では小池百合子都知事がイクボス宣言したことで、注目を集めた。イクボスとは職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランスを考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織も結果を出しつつ、自らの仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)のことを指す(対象は男性管理職に限らず、増えるであろう女性管理職も)とそのホームページに記載されている。 女性医師が増えた今、イクボスが女性医師に対し仕事を辞めずに継続させようという方針を打ち出し、発信することが重要だ。もちろん女性医師自身が高いモチベーションを持ち続けるのは重要だが、それでもなおライフイベントに左右されている現状がある。一律にすべての女性医師に対する万能な支援策はなく、個別の事情に対応していくことが望まれる。育児中の女性医師の支援体制が整うということは、介護や病気治療、不妊治療など様々な要因で時間制約のある医師にとっても働きやすい職場になる。また、医師だけでなくすべての職種に必要な育児支援と、10年後に頑張ってよかったと思える医師としてのキャリア支援は別に考える必要がある。短時間勤務制度利用者は当直・緊急対応、執刀・技術の習得、学会出張などフルタイム勤務者とは経験内容に違いがあり、さらにパート医は教育的フィードバックの機会を逸していると考えている。よって、それらの経験の担保のための工夫が必要だ。これらはイクボスの仕事であろう。 また、男性医師の価値観も多様化してきた。男性医師が妻の女性医師と協働して家庭運営をすることができれば、女性医師の活躍の幅も広がるし、男性医師のライフの充実にもつながる。女性医師の活躍の推進には男性の家庭参画とイクボスをセットで考えたい。男性医師の家庭参画もイクボスのバックアップが不可欠である。その実現のためには長時間労働や仕事の属人化(例えば主治医制度)などに対しても業務の整理や多職種連携など工夫をしながら対策していくことが必要である。 このような支援により優秀な人材を集め、離職が減ることが期待される。なにより、医療人がゆとりを持って働くことができれば、医療安全上のリスクを下げ、良い医療を提供できることにも繋がる。つまり企業戦略であることを理解したイクボスが増えることが重要だ。そのようなイクボスのもと、次世代のイクボスが育ち良い連鎖を生み出すのだ。
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