岡山大学病院 卒後臨床研修センター 医科研修副部門長 小比賀美香子
15年以上前の私の学生時代はもちろん、現在の医学部教育においても、全女子医学生に対する系統的なキャリア教育は行われていない。世界の中で低い日本人女性の社会的地位、いまだに多い女性医師の離職などを考えると、女性医師がもっと活躍するために、全医学生対象とは別に、「全女子医学生対象のキャリア教育」が必要と考える。日本女医会には、是非とも全女子医学生対象のキャリア教育が可能となるよう、全国の医学部へ働きかけ、リーダーシップをとって頂きたい。様々な教育手法があると思われるが、女子医学生への教育の結果が下記のようになればよいと考える。
①医師の仕事・使命を理解する
プロフェッショナリズム教育ともいえるが、医師の使命をまずは深く理解すべきと考える。生涯、医師として働き続ける原動力になればよい。
②医師としての目標をもつ
医学部に入学して間もない頃は、女性であることを意識せず、医師を目指す理由も明確であることが多く、医師としての目標を立てやすい。立てた目標に向かって、たゆまぬ努力を続ける必要性も伝えたい。
③日本人女性の現状について理解する
世界の中で日本人女性の社会的地位は低い。女子医学生は、医学部入学までに、個人差はあるが、すでに性別役割分担意識や、社会の女性に対する期待・先入観にさらされ、影響を受けている。その結果、医師としての目標を設定する際、自ら医師としての可能性を制限したり、あるいはライフイベントの際に、自分のキャリアプランをあきらめてしまう可能性がある。本当にやりたいことを見つけ、医師として成長を続けていくためにも、日本人女性の現状を客観的に認識することは重要である。
④自信をもつ
女性は男性に比べ、劣等感を感じやすい。キャリアアップに対しても消極的だ。意識して自信をもち、そのために学習を欠かさないことも重要である。
⑤子育ては親の責任、社会の責任であることを理解する
性別に関わらず、子を授かった場合、親業は社会人として大切な役割である。本来、子育ては子供も親も社会も豊かにするはずであるが、残念ながら日本では、次世代教育はあまり重要視されていない。国際的にみても明らかに長時間労働が多い日本は、正直、子育てしづらい。医師は特に労働時間が長いが、医師としての責任、親としての責任は、性別に関係なく各々果たすべきであることを認識してほしい。
⑥多様性を認め、お互い尊重しあう
家庭、職場、社会において、異性間、同性間、また研究者・臨床医間、多職種間において、お互いを尊重しあい、特性を活かしながら、よりよい医療を目指してほしい。
女子医学生の教育だけで十分とは思っていない。日本では、医師のみならず、労働時間が長いこと、子育てがあまり重要視されていないこと、根強い性別役割分担意識など、社会全体で取り組むべき多くの課題があり、対策が必要だ。まずは、我々女性がもっと積極的に声を上げていきたい。
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