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新しい治療とトピックス

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インスリン作用を介さずに血糖を低下させる新しい糖尿病薬―SGLT2阻害薬

東京女子医科大学付属成人医学センター 糖尿病内科

宇治原 典子

はじめに

2009年にインクレチン関連薬が発売され、糖尿病治療に新たな選択肢が出現しましたが、2014年に入り、さらに今までと全く発想の違う新しい糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬が登場しました。 日本糖尿病学会では、さまざまな臨床研究の結果から、合併症予防のための血糖コントロール目標をヘモグロビンA1c(HbA1c)7%未満としています。しかし、いまだにその達成率は、全患者のうち3割程度であるといわれています。そこで、今までにない機序で働くSGLT2阻害薬の登場は、この課題を解決する一助となることが期待されます。

糖の再吸収とSGLT

体内の糖調節は、インスリンによる糖低下、肝臓や腎臓での糖新生、腎臓での糖の再吸収により行われています。腎臓における糖の再吸収は、糸球体と腎盂をつなぐ近位尿細管という場所でSGLT(sodium-glucose cotransporter)が行っています。 SGLTとは「ナトリウム・グルコース共役輸送体」と呼ばれるタンパク質の一種のです。体内では、グルコース(ブドウ糖)やナトリウムなどの栄養分を細胞内に取り込む役割を担っています。また、SGLTには6種類のアイソフォームがあり、腎臓ではSGLT1と2が発現しています。 腎糸球体では血中のグルコースをほぼ100%ろ過し、このほとんどすべてが尿細管で再吸収されます。健常者では1日約180gのグルコースが糸球体でろ過されますが、近位尿細管のS1セグメントでSGLT2により90%以上が再吸収され、S3セグメントでSGLT1により残り10%が再吸収されます(図)。 このため健常者では、尿からの糖の排泄は認められません。糖尿病の高血糖状態では、SGLT2の発現が亢進しており、尿細管からのグルコース再吸収が増加しますが、再吸収するグルコース量には上限があり、一定の閾値を超えると尿糖が出現します。

SGLTの作用

SGLT2阻害薬の作用

リンゴの樹皮から抽出されたフロリジンが、ブドウ糖を尿中に排泄させ、血糖値を低下させることは古くから知られていましたが、のちにこれがSGLTの阻害によるものであることがわかりました。フロリジンは薬としては実用化にいたりませんでしたが、その後、SGLT2選択性が高く、薬効持続性や安全性の高いSGLT2阻害薬の開発が進み、2014年4月に日本では1剤目のイプラグリフロジンが発売されました。その後12月までに5剤が発売、1剤が製造承認され近々発売となります。(表)。

SGLT2阻害薬

血糖降下作用

いずれのSGLT2阻害薬も1日1回の投与でHbA1cHbA1c、空腹時血糖、食後血糖の低下作用が認められています。また、市販されているSGLT2阻害薬はいずれも他の血糖降下薬と併用も可能です。

体重減少作用

SGLT2阻害薬の特徴的な作用として、体重の減少があげられます。いずれの薬剤でも2kg程度の体重減少が認められます。投与後、初期の体重減少は浸透圧利尿によるものと考えられ、その後さらに尿糖排泄によるカロリー喪失で体重が減少すると考えられます。他の血糖降下薬との併用でも体重減少作用は認められており、一般的に体重増加をきたす傾向にあるSU薬(スルホニル尿素薬)やピオグリタゾンとの併用においても体重減少が認められました。

血圧低下作用

5mmHg程度の収縮期血圧低下作用が報告されています。これは浸透圧利尿による作用と考えられています。

低血糖

単独投与での重篤な低血糖は、ほとんど報告がありません。他の糖尿病薬との併用では重篤な低血糖が報告されており、特にSU薬やインスリンと併用する際は薬剤量の減量が推奨されています。

尿路性器感染症

特に女性で高頻度です。尿検査や問診などで発見につとめる必要があります。

頻尿・脱水・脳梗塞

浸透圧利尿による多尿、頻尿がおこり、体液量の減量をきたし、脱水症状を呈することが考えられます。特に、脱水による口渇を感じにくい高齢者では、注意が必要です。また、利尿剤を服用中の患者に併用する場合も注意が必要です。市販後の副作用報告では、比較的若年(40歳代)でも脱水によると思われる脳梗塞を発症した例があり、患者に対する注意喚起を行うこと、ヘマトクリットの測定がすすめられます。下痢や嘔吐などで食事のとれない場合は休薬することを指導したほうがよいでしょう。

皮疹

治験段階ではあまり問題になりませんでしたが、市販後、皮疹が多く報告されており、重篤なものも報告されています。薬剤開始後、皮疹が出現した場合はたたちに投与中止することがすすめられます。

ケトーシス

エネルギー源として脂肪が動員され、血中ケトン体が増加すると考えられます。インスリン分泌不全患者では、ケトアシドーシスを発症する危険があり注意が必要です。

るい痩・筋肉量の減少

食事療法が適格でない場合、特に極端な糖質制限を行っている患者では、エネルギー源として脂肪、蛋白が使用されるようになり、筋肉量の低下、るい痩をきたす可能性があります。 糖尿病学会ホームページに適正使用についてのRecommendationが掲載されていますので参考にしてください。

SGLT2阻害薬は新しいタイプの経口糖尿病薬であり、さまざまな作用が期待される一方、予想されない副作用の出現も考えられます。適応例の選択や長期的な効果、副作用に十分注意が必要です。また、薬剤の性質上、腎機能低下例では、効果も減弱します。適応としては、比較的若年で腎機能がよく、メタボ体型の患者が適していると考えられます。

キーワード

SGLT2阻害薬、2型糖尿病、経口糖尿病薬

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