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新しい治療とトピックス

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乳がん診療の最近の話題

東京女子医科大学附属青山病院 乳腺科

青山 圭

1.乳がんの疫学

日本でも乳がんの発生率は年々増加し、女性のかかるがんのトップになりました。2010年では罹患者数は約7万6千人となり、日本人女性が乳がんにかかる割合は16人に1人といわれています。欧米では閉経後の乳がん症例が多いですが、日本では閉経前・後の40代~50代でかかる方が多いです。乳がん増加の背景には、ライフスタイルの欧米化が指摘されています。高カロリー・高脂肪の食生活による思春期女性の初潮の低年齢化や肥満、晩婚・少子化による初潮から第1子出産までの期間の長期化などが危険因子として上げられます。

乳がんの危険因子と相対危険度

2.乳がんの予防

エビデンスレベルはそれぞれ異なりますが、1次予防として乳がんリスクを下げることが報告されているものがあります

*閉経後の肥満と過体重を避ける
*定期的な運動をする
*禁煙をする
*ホルモン補充療法を控える
*タモキシフェンやラロキシフェンによる化学予防
*予防的乳房切除術・予防的卵巣切除術
※肥満=BMI30.0以上 過体重=BMI25.0以上

(食事や栄養素に関しては、脂質が危険要因として、野菜、果物食物繊維、イソフラボン等が予防要因として注目されていますが、現時点で十分な根拠のあるものはありません。)

2次的予防として、検診の普及は乳がんの早期治療を可能として、乳がん死亡数の減少につながると期待されています。欧米では乳がん発生率が増加しているにも関わらず、乳がん死亡率は減少しています。多くの先進国ではマンモグラフィによる乳がん検診が推奨されており、欧米では検診受診率が60~80%ですが、我が国の検診受診率は約20%前後と極めて低いのが現状です。日本では乳がん発生率の増加とともに、乳がん死亡率も上昇しています。乳がん死亡率を減らすためにも、検診受診率向上の必要性が指摘されています。

遺伝性・家族性乳がん

日本では欧米に比較すると乳がん全体の発症率・有病率が低く、遺伝性・家族性乳がんに関する認識が十分ではありませんでした。しかしSuganoらの研究(2)によると、20歳以上の日本人乳がん・卵巣がん患者のうち、第1~第2度近親者に1人以上乳がんもしくは卵巣がん患者がいる人の26.7%に、BRCA1/2遺伝子変異が確認されました。遺伝性乳がん・卵巣がんは日本人においても重要であることの認識が必要となっています。 乳がん発症リスクの高い女性に対しては、早期診断のために検診を強化するなどのサーベイランスとともに、化学予防や予防的手術などを検討する時代となってきています。しかし、化学予防や予防的乳房切除は、現状日本ではほとんど行われていません。欧米との医療制度の違いや、BRCA1/2遺伝子検査が普及していないこと、日本人での有効性や安全性が検証されていないためと思われます。 NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology, Genetic/Familial High-Risk Assessment ; Breast and Ovarian, version 1, 2012(3)では遺伝性乳がん、卵巣がんを疑い、BRCA1/2遺伝子検査を考慮する基準が示されています(下記参照)。家系内の発端者から検査を行うことが原則です。乳がん患者の中から遺伝性乳がん・卵巣がんのハイリスク群を的確に見出し、BRCA1/2遺伝子検査を実施し、適切なサーベイランス・予防的措置につなげていく必要があります。今後は乳腺外科医、婦人科腫瘍専門医、形成外科医、臨床遺伝専門医、腫瘍専門看護師や認定遺伝カウンセラーなど、専門家によるチーム医療体制や保険医療制度、法制度の整備が、遺伝性乳がん・卵巣がんの診療を充実させるために必要となっています。

家族性乳がんの定義

A. 第1度近親者(親・姉妹・子供)に発端者(本人)を含めて3人以上の乳がん罹患者がいる B. 第1度近親者に発端者を含め、2人以上の乳がん患者がおり、そのいずれかが次のどれかを満たす場合①40歳未満の若年発症②同時性あるいは異時性の両側乳がん③同時性あるいは異時性の他臓器重複がんである。

NCCN Guidelines Version 1. 2012 乳がん・卵巣がんの遺伝的評価

詳しい遺伝的リスクの評価の基準

以下のうち1つ以上に該当する患者
・若年発症乳がん
・トリプルネガティブ(ER-, PgR-, HER2-)乳がん ・1人に2つの原発性乳がん
・年齢を問わず乳がんで、かつ
▼近親者に50歳以下の乳がん患者がいる。または
▼近親者に年齢を問わず上皮性卵巣がん患者がいる。
または
▼近親者に年齢を問わず乳がんおよび/または膵がん患者が2人以上いる。
・高リスク集団に属する
・一方の家系に乳がんと以下のうち1つ以上が集積:甲状腺がん、肉腫、副腎皮質がん、子宮内膜がん、膵がん、脳腫瘍、びまん性胃がん、皮膚症状または巨頭症、白血病/リンパ腫(特に早期発症の場合)
・卵巣がん
・男性乳がん

以下のうち1つ以上の家族歴を有する非発症者
・一方の家系(母方または父方)の1人または2人に併せて2つの原発性乳がんが認められるv ・一方の家系(母方または父方)に原発性卵巣がんの患者がいる
・第1度または第2度近親者に45歳以下で乳がんを発症した者がいる
・一方の家系に乳がんと以下のうち1つ以上が集積:甲状腺がん、肉腫、副腎皮質がん、子宮内膜がん、膵がん、脳腫瘍、びまん性胃がん、 皮膚症状または巨頭症、白血病/リンパ腫(特に早期発症の場合)
・家系内に乳がん感受性遺伝子の既知の変異がある

3. マンモグラフィ検診の真の利益

2009年、米国予防医学専門委員会(US Preventive Services Task Force, USPSTF)は、乳がん検診の推奨度は真の利益(真の利益(net benefits)=利益(benefits)-不利益(harms))で決定すべきである報告した3)。その上で、40歳代のマンモグラフィ検診は、死亡率減少という利益を認めるものの、不利益の大きさを考えると、推奨しない(推奨度 グレードC)とした。この報告は、大きな衝撃を与えると共に、現在マンモグラフィ検診制度を考える基本になっている。

キーワード

乳がん、検診、予防、遺伝性・家族性乳がん

キーワード

  1. American Cancer Society 「Breast Cancer Facts & Figures 2009-2010」
  2. Sugano K , Nakamura S, Ando J, et al. Cross-sectional analysis of germline BRCA1 and BRCA2 mutations in Japanese patients suspected to have hereditary breast/ ovariancancer. Cancer Sci. 99(10): 1967-1976, 2008
  3. NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology

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