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新しい治療とトピックス

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生活習慣病の予防・管理に、睡眠を

東京女子医科大学附属青山病院
睡眠総合診療センター

鈴木 真由美

はじめに

近年、食の欧米化、運動不足などにより肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症の人が増えています。糖尿病はこの40年で約8倍、肥満は中高年男性では約2倍に増加しています。これら生活習慣病は、動脈硬化を促進し、脳梗塞、心筋梗塞などの脳心血管疾患を引き起こします。そして現在、脳心血管疾患は日本人の死因の1/3をしめ、悪性新生物に次いで第2位となっています。したがって、脳心血管疾患を予防するために、生活習慣病対策は急務となっています。我々医師も、日々の診療の中で食事、運動、禁煙指導をしていますが、実は、睡眠も生活習慣病と密接な関係があります。

1.睡眠時間と生活習慣病

睡眠時間と寿命(死亡率)の関係を調べたところ、一日に7~8時間の睡眠をとっている人が最も寿命が長く、それより短くても長くても寿命が短くなることがわかりました。BMI、HbA1c、TG、HDLコレステロール、血圧も同様の傾向をしめし、7時間くらいの睡眠がこれらの数値が最もよいことが報告されています(※1)。睡眠時間が短いと生活習慣病になりやすいのはなぜか、現在考えられている肥満、糖尿病、高血圧の発症と悪化のメカニズムを図の黒字で示します。実は、日本人の睡眠時間は年々短くなっています。そこで、寿命と健康のためには睡眠時間を確保することが重要です。一方、睡眠時間が長い場合も寿命などが短くなる原因は不明ですが、もともと睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害があり、睡眠の質が悪くなり床上時間(寝床にいる時間)が長くなっていることなどが推定されています。
(※1)BMI:身長からみた体重の割合を示す体格指数。肥満度。
HbA1c:ヘモグロビンエイワンシー。1~2か月前の血糖の指標となる値
TG:トリグリセリド。血中脂質
HDLコレステロール:いわゆる善玉コレステロールで動脈硬化を予防する

睡眠不足、睡眠の質の悪化と生活習慣病

2.睡眠の質と生活習慣病

図の赤字では、現在考えられている、睡眠の質の低下による糖尿病、高血圧発症のメカニズムを示しています。 入眠障害や中途覚醒の多い人は、少ない人に比べ、糖尿病発症のリスクが高いことが報告されています。また、糖尿病患者は、非糖尿病患者と比較して深睡眠(※2)が少ないなど、睡眠の質が低下していることが報告されています。このような睡眠の質の低下が、図に見るようなメカニズムで血糖コントロールを悪化させていることも知られています。血圧においても、深睡眠が少ないと高血圧になりやすいことが報告され、メラトニン分泌減少が血圧上昇に関与していることもわかってきました。

睡眠不足のみならず、さらに睡眠の質が低下すると悪循環となるわけです。深睡眠を増やし、睡眠の質を高めるためには 熟睡ホルモンであるメラトニンの分泌に着目することが重要です。メラトニンは起床時、光を浴びると14~5時間後に脳の中の松果体より分泌されます。たとえば、6時に起床すると、20時ころに分泌を開始、暗くなるに従い分泌量が増え、0時から2時ころがピークとなり朝方消失していきます。

昼間に光にあたると夜間のピーク分泌量が増加し、逆に夕方から夜間にかけて強い光にあたると分泌量が減ってしまい、熟睡できなくなります。夜間遅くにコンビニなどの明るい照明下で過ごしたり、TV、DVD、PCなどの液晶画面を見ることは避けたいものです。そして、昼間は光をあびて体を動かすと、よく眠れるようになります。(※2)睡眠段階3または4の深い睡眠で。徐波睡眠ともいう。

3.夜型生活、不規則生活と生活習慣病

現代社会は24時間活動する24時間社会へと変化しつつあり、社会のニーズにあわせて交替勤務者は増加し、2007年の我が国の労働者人口で占める割合は27%に達しています。そして、日勤と夜勤を交互に行う交替勤務者では、肥満、糖尿病、心血管イベントをおこす率が高いことが報告されており、その原因として夜間労働自体より、生活リズムが錯乱される影響が考えられています。ヒトの睡眠、概日リズムは、体内時計で調節されています。脳の視床下部にある視交叉上核には主時計があり、これが時を刻むと脳内での概日リズム、睡眠覚醒、摂食、糖脂質代謝調節機構(脳時計)に働き、消化器や、心臓、腎臓などほとんどすべての臓器にある末梢時計へと伝わり、生体活動がスムーズに営まれていきます。

ヒトの体内時計は24時間より長く、地球の24時間リズムに合わせているのが、朝の光です。朝、光を浴びると主時計は速やかにリセットされ、脳時計を介し末梢時計に伝わります。しかし、末梢時計、特に消化器の末梢時計は太陽光にはなかなか反応せず、食事に反応してリズムを修正することが知られています。朝食(長時間絶食後の食事)の食事刺激は、主時計を通らず脳時計に直接働きかける、別のルートがあるからです。したがって、朝起きる時間がまちまちだったり、夜遅くまで強い光を浴びたり、朝食を抜くと体内時計に不調が生じることになります。

夜型生活、交替勤務者は、睡眠不足と同様に、夜間交感神経亢進、コルチゾール上昇、レプチン低下、グレリン上昇などをきたすことと、中枢時計(主時計、脳時計)、肝臓や脂肪組織などの末梢時計の乱れによる神経内分泌リズムの位相の異常により、肥満、糖尿病、高血圧などを発症することが考えられています。

夜型生活、不規則生活の体内時計の乱れを修正するには、朝の光を浴びましょう。主時計の調節をします。朝食をしっかりとりましょう。末梢時計の調節をします。朝食をとらない人が増えています。ぜひ、生活習慣病の予防、管理のためにも、バランスのよい朝食をとっていただきたいと思います。

人は人生1/3の時間を眠ります。体調の悪い時は、食事バランスや運動不足の解消を心がけるだけでなく、「よく眠れているだろうか?」を考えてみてください。 そして睡眠障害に関する相談などは、睡眠専門医へご紹介ください。

最後に日本睡眠学会では、2013.6.13「 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン-出口を見据えた不眠医療マニュアル-」が策定されました。日本睡眠学会のホームページより どなたでもご覧になれます。どうぞみなさんの健康維持にお役立てください。

キーワード

生活習慣病、 睡眠不足、睡眠の質、メラトニン、夜型生活

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