日本女医会学術研究助成受賞後の研究とキャリアの発展」
グラント取得のたゆまぬ努力
私は、大学院を修了し、医学博士の学位を取得した3~4年後に、「ミトコンドリアDNAを使用する親子鑑定」に関する小さな研究(受賞研究課題名「母子関係・父子関係の双方鑑定を可能とするミトコンドリアDNAプローブの開発」)で、日本女医会の学術研究助成を受賞することとなった。それは文字通り、生まれて初めて得られたグラントであり、この受賞をきっかけに、私はこつこつとたゆまずにグラントを書くようになった。15年間在籍した東京女子医科大学では、常に申請できるグラントのリストが公開されており、そのような環境において、グラント・ライティングを絶えず行なうことが自然な流れとなった。日本女医会の学術研究助成の受賞は、この学問的な習慣の形成のきっかけとして、大きな意味を持つことになった。本助成申請を御薦め戴きました橋本葉子先生には、その後も様々なご高配を賜り、ひとえに深謝の念に耐えない。そして、このような地道な努力が、15年間で1億円を超える研究費の取得につながり、文部科学賞の科学技術賞の受賞と文部科学大臣からの表彰につながることとなった。
欧米では、大学の中にグラント・ライティングの講座があり、日本における研究助成取得よりはるかに厳しい状況の中で、研究者が切磋琢磨している現況がある。グラントの額も、日本ではとても小さなものと極端に大きなものが多いのに比較して、1000万から2000万程度の中間的なものが多く、研究者が主として時間をさくのは、実験とグラント準備の2つであるような印象を受ける。しかし、欧米の事情が理想的である訳では決してない。アメリカでは、ブッシュ政権が戦争にお金を使ってしまったため、かなり長期間、科学研究費が抑制され、国の重点施策、メタボリック・シンドローム、あるいは看護師を対象とするグラントが医師を対象とするグラントよりはるかに増額される等、その配分も偏ったものになっていた。その一面、NIHの相当額のグラントのテーマとして、小児の中枢神経系への戦争の影響を調査するものなどがとりあげられており、この国のこのような一面は評価されるべきなのではないかと思う。
私の研究の根幹にあるもの
この賞の研究をきっかけに、親子鑑定という特殊な実務分野の知識を得て、それなりにこの分野にも対応できるようになった。15年間にDNA を対象とする法医学の鑑定技術にもかなりの変遷があったが、そのような変遷にも関わらず、女子医大の法医学教室の技術を常に第一線のものに保つことができたのも、この時の受賞が大きく影響している。
更に、印象深いのは、日本女医会学術研究助成を受賞した私の研究テーマが全く実学的なものであったことである。このような学術研究助成は必ずしも実学的色彩の強いものに与えられるとは限らない。しかし、医学は本質的に実学であり、興味深いというような賞讃の言葉だけで表されるような性質のものではない。私自身のその後の研究は、発症機序の解明や裁判例解析等、必ずしも実学的色彩の強いものばかりではなく、年月を経るにつれてその傾向は強くなった。私自身の特質も実学には向かないように思料された時も多い。しかし、私の研究の出発点であった当該受賞研究が実学的であったことが、私自身のどこかに常にあって、今でも、私の研究は、定期的に実学的な研究に舞い戻る。シンプルな実験系で構成された実学的研究というのが、私の理想とする研究の形として常にある。 今も、行なっている研究の二つを実学的色彩の強い方向に進めている。そのような方向で、世界に寄与したいという想いを私に与えたものが、日本女医会学術研究助成の受賞なのである。
キーワード グラント グラント・ライティング、実学