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2007.05.19 
第27回 平成18年度受賞 藪 由紀子  

「一風変わった私の研究人生」

元 ワイス株式会社、研究・開発部門、臨床開発部長
現 医薬品開発・労働安全コンサルティング MEDASS 主宰
藪 由紀子

1)はじめに

 過去に日本女医会の研究助成を受けた先輩女性医師のその後を語ってもらい、若い女性医師のキャリア開発の一助にしたいという日本女医会の企画に賛同し、大学や医療現場での研究・診療から大きく道を外れた私の「やや変った職歴」を、あえて一つの選択肢として語ってみようと思う。

2)女医会研究助成と研究生活

 修練医の後、私はリサーチフェローとして米国で約3年の研究生活を経験した。1983年末に帰国し大学で教職についた時、文部省科学研究費(当時)とともにいただいたのが、日本女医会の研究助成であった。たとえ多額でなくても、自身の名前で研究費を持つことは独立した研究者への一歩であり、アカデミアでのキャリア開発を目指していた私を大きく勇気付けてくれた。
その後数年間研究生活を続けつつも、毎年の学会に多少なりとも「新知見」を出し続け、新しいトレンドや技術を研究に組み込んでいくことの難しさに悩むことが多くなったのも事実であった。

3)製薬企業での研究開発

 1989年、私は大学での研究生活に終止符を打ち、外資系製薬企業の研究開発に職を求めた。当時としては珍しい選択であり、私の上司、周囲の研究者・医師はこぞって反対した。当時の日本の臨床試験は科学的な質に問題があり、国際的な医学雑誌に発表される新しい治療法は、ほぼすべてが欧米の大規模なコントロール臨床試験によって評価されていた。このような大規模臨床試験を、自身でマネージしたいと思ったのが転職の大きな理由であった。ある新規化合物の「有効性」と「安全性」について「仮説」をたて、前向きのプロトコールを作成し、臨床試験を遂行し検証するという一連の過程は「研究」そのものである。多額の費用と人手をかけることのできる企業の臨床試験は、そのスケールにおいても、また、科学的な質においても、小規模な研究グループで実施するものとは比較にならなかった。
 医薬品開発は、10年を超える長い歳月と、化学者による化合物の探索から、動物における安全性評価、患者での有効性と安全性評価、さらに多額の投資に見合う商品価値をつけるためのマーケティング戦略の立案など、実に多くの人を巻き込む仕事である。各国の専門家・担当者と協議をしながら開発戦略を立て、効率よく開発を遂行していく仕事に、私は過去の研究生活で培った思考方法と、臨床現場での体験を十分に反映させることができたと思っている。身体的にハードではあったが、約20年にわたって実に楽しく仕事をさせてもらった。私がこの仕事に興味を持ち続けることができたのは、以下のような理由による。
・期待されるエビデンスを検証するための一連の過程は、まさに「研究」そのものである。
・医薬品審査にかかわる規制当局(日本では厚生労働省)に対して、検証結果をどのように評価し、いかに主張、交渉するか、また、市場における医薬品の価値をどのように確立するかは、いずれも医学的・科学的根拠にもとづく戦略である。
・さまざまな分野の専門家や企業経営の責任者と、時に激論を交わしながらも学ぶことが多い。
・外資系企業は、昇進や昇給が主に「成果」によって評価され、その評価に男女差が極めて少ない。
 大学や病院に勤務していただけでは経験し得なかったさまざまな仕事、機会に巡り合い、「研究志向」 を損なうこともなく、複数の医薬品を市場に供給できたことに対し、私自身、「なかなか面白い人生だった」と評価している。 

4)キャリア開発について

 私の医師としてのキャリアは、「研究者」 から「企業人」 と一見大きく途切れたように見えるが、仕事の基本姿勢はいつも「研究志向」であった。30歳代の経験の蓄積が次の40歳代の成果 を導き、個々の成果の集大成として50歳代があるのだと思う。キャリアは与えてもらうものではなく、自身が、日々の仕事に手を抜くことなく継続することによって成し遂げるものである。

5)次の世代の方々へのメッセージ

 大半の人が歩む道でなくても、また、未経験の領域でも、仕事に対する自身の「基本姿勢」をしっかり保持しながら、恐れることなくチャレンジして欲しい。道は必ず開かれ、思いもかけない「楽しさ」が見つかるはずである。 

キーワード 仕事への基本姿勢 キャリア開発 チャレンジ


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