「頑張っている皆さんへ」
なぜ、私が医学教育学に携わるのか
医学部で膨大な量の知識を詰め込み、辛い(?)試験を何度も受けて医師になった皆さん!大学時代に得た知識を総動員し、分からない事を調べながら瞬間的に考えて毎日患者さんの診療に忙しい皆さん!日々医学や医療の常識が変化していくことを実感している皆さん!学生時代から不思議に思っていたことや診療で疑問に思ったことを解明しようと研究をしている皆さん!
頑張っている皆さんに何かしらの参考になればと思い、研究課題「女子医学生および女性医師の職業意識を規定する因子に関する研究」で第28回日本女医会学術研究助成を頂いた私が、卒業後どのように過ごし、本研究をするに至ったかお話したい。
平成3年に東京女子医科大学を卒業し、直ちに大学院で内分泌学を学んだ。高校時代から生物が好きで、医学部で生理学や生化学に関連し理路整然とした内分泌学に興味を持ったからだ。研修医と同様に臨床や当直を担当し、内分泌内科の研究室で成長ホルモンやインスリン様成長因子(IGF)の病態生理学的研究を始めた。大学院修了後にも研究を続け、IGFの細胞内シグナル伝達の研究で平成8年~10年米国国立衛生研究所(NIH)の糖尿病関連の研究室に留学した。その後留学中に知り合った心臓血管外科医と結婚し、平成11年~13年英国Oxford大学小児科およびCambridge大学小児科で症例に基づいたIGFの解析を続けた。英国医師免許証を取得しOxford大学内分泌内科で臨床もしていた。その間出産し、育児をしながら楽しく仕事を続けた。帰国後は大学の内分泌内科に戻った。
そんな私が医学教育学に専門を変えたのは、オランダ医学部2校での3週間の医学教育研修に参加したのがきっかけだ。もともと教育に興味があったが、若い医師や医学部学生の指導や学生の講義を受け持つようになると、更に教育に興味が湧くようになった。自分の専門分野の話をするのは簡単だけれど、受け手の理解や成長が異なる。大講義室での講義内容を試験すると学生の成績に大きく差が見られるし、臨床現場では思いがけず短期間で内分泌学的な判断を身につける医師もいる。いつの間にか、どうすれば上手く相手の成長を助けられるのかを考えるようになった。育児の経験も「教育」に携わる具体的な動機になった。
女性医師の育成と継続的な活動を支援するために
教育を専門にすると、成人の学習意欲や記憶能力は独特であること、そのような対象の教育に有効な方法があること、日々更新される医学情報を取り入れるためには生涯学習の習慣の体得が不可欠であることなどが見えてきた。これまで自分の専門領域について何となく教えていたが、効率よく最小限の知識を与え、自ら考えさせる教育法が不可欠である事が分かった。
最近の医師不足および偏在の問題では、女性医師の離職が深刻に取り上げられている。解決には職場環境の整備が急務であると同時に、私は女性自らが高い職業意識と自立心・社会的責任感を保持する事が重要と考えている。女子医学生と女性医師の持つ資質・特徴・職業意識を分析し、卒前・卒後・生涯教育およびリメディアル教育に活用することが、女性医師が継続的に医療現場で活躍し、国民の健康維持を担うことに繋がると思う。現在は本学医学部学生に対し、医師を志す理由、仕事への興味・感情、責任感、奉仕の精神、慈しみの心、ロールモデルの有無、同性・異性・異年齢層の患者・患者家族・医療従事者とのコミュニケーション能力、人生設計、収入への関心などを調査している。職業意識を規定する因子を解明することが目的だ。女性医師の確保と社会貢献に関する研究、女性医師のキャリア形成のための教育方法と教育評価方法の開発に役立てばと思う。
医学教育の研究を通し、今後の女性医師の育成のお役に立ちたいと切に願っている。女性の経済的自立や社会進出のためだけでなく、医師を生涯の職業として選択したことを喜びと感じる医師や研究者をより多く育成することが夢だ。女性には色々な転機があり、時には不本意な選択を余儀なくされる事もあると思うが、どのような経験も医師という職業には無駄にはならない。日本女医会をはじめ皆さんの周りには沢山の人生の先輩もいる。医師を目指し頑張ってきた皆さん、これからも自分の進む道を極め、有意義な生活を送りましょう!
キーワード:医学教育 女性医師のキャリア形成 教育法 医師不足