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1994.05.29 
第14回 平成5年度受賞 橋井 美奈子  

「研究助成受賞後のcADPR研究とその成果」(仮)

金沢大学・医薬保健研究域・脳細胞遺伝子学
橋井美奈子

CD38、オキシトシン分泌が脳機能にもたらす役割(仮)

 『セカンドメッセンジャーレベルからみたてんかん原性の研究 ―イノシトールリン酸による細胞内Ca2+流入機構の解明 』というタイトルで平成5年度に研究助成をいただいた。ちょうど博士研究員として新しい職場で実験セットを組む時で励みになり、またその後もカルシウムシグナリングの研究を続けることができ大変感謝している。現在は サイクリック ADP-リボース(cADPR)の神経細胞内でのCa2+上昇効果を解析する仕事に参加しており、その内容を紹介したい。
 cADPRの発見は今から20年前にさかのぼり、最初の発見は細胞内Ca2+上昇効果をウニ卵で見つけたという地味な内容であったが、6年後の1993年に、cADPRが膵β細胞でセカンドメッセンジャーとして細胞内Ca2+上昇に働くという論文が東北大学の岡本宏博士のグループから報告されると(Takasawa S, Okamoto H et al., Science 262 : 584-586, 1993)、世の研究者の注目を集めるようになった。
 そこで私たちはcADPRのイオンチャネルへの作用について解析を進めた。cADPRにはリアノジン受容体を活性化する作用があるが、培養神経細胞においては、その作用はL型Ca2+チャネルの開口とカップルして起こることがわかった (Hashii M, Higashida H et al., J. Neurochem. 94 : 316-323, 2005)。また安定型cADPRアナログの開発にも参加しており、いくつかのアナログの神経細胞での細胞内Ca2+上昇効果をみいだした(Kudoh T, Shuto S et al., Tetrahedron 64 : 9754-9765, 2008)。
 3年ほど前にcADPR合成酵素であるリンパ球表面抗原CD38について解析するプロジェクトに参加し、CD38が脳機能にとって重要であること、すなわちCD38により合成されたcADPRが視床下部神経からのオキシトシン遊離を促進することにより、子育てや愛情・信頼の形成といった社会行動に必要な役割を果たすことがわかった(Jin D, Higashida H et al., Nature 446 : 41-46, 2007)。現在私の所属している東田研究室では、CD38・オキシトシン分泌と自閉症との関係に注目し、解析を進めている。

研究助成を活用して、もっと研究実験を(仮)

 研究って面白いよ、と学生時代に聞いていたが、卒後最初に受け持った「手足がじんじんしびれる」という訴えでこられた副甲状腺機能低下症の症例に出会うことでその意味がわかった。当時お世話になった教授が、ふと「テタニーってなぜおこるのだろうか、細胞外カルシウム濃度が下がるのだから興奮性は高まるのかなあ?」と疑問をもたれた。そこで末梢神経を肘部で刺激し、手首部での興奮性を調べてみようということになり、私たちは意味もよくわからず電気生理のセットアップを手伝った。
 結果は意外で、患者さんの値はコントロールとして集まった医局内のどの上司や同僚の値よりずっと低く、興奮性はむしろ低いことがわかった。その後治療が始まると興奮性が回復し、「じんじん感、すっかり消えましたよ」と言われた時にはうれしい気分になった。なぜテタニー神経遠位部の興奮性は低いのだろう?と調べていくうち、外国にもまったく同じ疑問を持つ人がいて、同じ方法で測定をしていることがわかった。結果としてテタニーがおこっていても末梢神経遠位部では興奮性は低下していることをはっきりを述べ、さらにCaシグナリング異常について高度な考察まで加えているのには感動した。
 以来、教科書にない結果や新しい発見が、意外と目の前にあるかもしれないと思うようになった。若い先生方には日常の診療活動などで不思議な現象に出会われた時、できれば実験をしてもう一度調べてみられること、さらに女医会の研究助成申請などを通して、あれこれ実験プランを練ってみられることをお勧めしたい。

キーワード:カルシウムシグナリング イノシトールリン酸 サイクリック ADP-リボース CD38


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