「助成受賞して」
内耳の3次元計測
ちょうど20年前、朗報が届いた。日本女医会学術研究助成の該当者になったという連絡である。テーマは「内耳部分障害の研究」であった。
昭和61 (1986)年SORENNTO 国際女医会への参加時に日本女医会にも入会して3年目であった。科研費をはじめとして、研究費の申請はいつも空振り、そういうものだと自分に言い聞かせて期待していなかっただけに嬉しかった。
このときの申請書、受賞の寄稿、成果の報告書を読み返してみた。35万円一年間の研究助成で、デジタイザーを買った。デジタイザーで内耳組織標本の画像を医局のパソコンに取り込み、3次元画像に組み直すためであった。
当時ようやくパソコンを素人が研究に利用できるようになったところであった。更に20年前私が入局した頃は、コンピュータを素人が扱うのは不可能であった。数値データを持って大学のコンピュータ室に出かけ、統計処理などしてもらっていたものである。それが、連続切片をトレースした線画を切片の数だけデジタイザーでパソコンに入れると、そのdataから3次元のワイヤーフレーム画像ができ、これを見たい方向に回したり、太さや長さを測ったりできるようになったのである。
蝸牛はピアノの鍵盤をカタツムリ状に巻いたようなものである。その長さはピアノの鍵盤数のごとくに重要であるが、2次元の組織切片からは正確に計ることはできない。これを計測するために開発されたパソコン用のプログラムを譲り受け、三半規管の3次元計測を行ったのである。三半規管は3つの半規管がサイコロのような立方体を形成し、各平面での内リンパ液の流れをセンサーが感じ取ることによって頭の動きを検出するもので、多くの生理学的研究が行われている。にもかかわらずその基盤である半規管の立体配置を計測するのは容易でない。半規管同士のなす角度や半規管の大きさなどの計測をハトとサルとで行ったのである1) 2)。この研究は発展して、内耳膜迷路の計測3) 、更にMRIの解像度がよくなった今最終段階にある。すなわち、内耳という一般名詞でなく、Aさんの三半規管の立体配置を測定し、その人の温度眼振反応と比較することで、温度眼振の成因にせまるという研究を、放射線科との共同研究で行っている。
公的研究費獲得実績の重さ
当時、女子医大第二病院(現在の東医療センター)耳鼻科の助教授になったばかり、教授を助けるという立場に立って初めて、他人のために時間とお金を工面するのも仕事だと自覚した。その時いただいたのが女医会の研究助成金であった。この年の研究費の申請は423万円で、残りはこの時もらえなかったが、他の研究費については問われることなく出してもらえたのが有り難かった。この装置を使って、学位論文2) ができた。
その後科学研究費を受けることができるようになったのは、研究費獲得の実績として評価されたのであろう。後に科研費受給の審査員の立場になってわかったのは、公的研究費獲得実績の重さである。その後も、臨床に追われる病院勤務にあって細々ではあったが、何人もの学位論文のお手伝いができた。それが現職につくことができた理由であろう。
私の日本女医会歴は大学卒業年1969に始まる。入会したのみで何もせず、自然退会。ソレントの国際女医会にお誘いいただいたのは、女子医大の先輩で、獨協医大の産婦人科助教授の堀口文先生で、女医会研究助成金の申請も勧めていただいた。男性社会の医学界で"男性による女医に対する温かい目"は優遇と称して困難な症例を当てないようにしてスポイルすることが多い。育てることはむずかしい。誘いとプレッシャーをかけ、ちょっとしたご褒美、そして誘いに乗ることが大切と思うこの頃である。
1) 土屋由子、新井寧子、荒牧元、他:ハト内耳の三次元再構築。日耳鼻95:1510-1511,1992
2) 石井香澄 サル骨半規管のコンピューターによる三次元再構成と計測 東京女子医科大学雑誌 65:192-203,1995.
3) 上田範子 サル半規管膜迷路の三次元再構築および計測。東京女子医科大学雑誌 75:14-24,2005.
キーワード:内耳 三半規管 立体配置 日本女医会 奨学金