「30年、生死を分かつ科に仕えて」
女医であるメリットを活かしながら
脳神経外科という科を選択した理由は、さほど深く考えての結果ではありませんでした。しかし、この科とお付き合いしてはや30年、やはりこの科以外に私の道はなかったと、今でも脳神経外科を選択できたことに感謝しています。
脳神経外科は、生死、死に際の科でもあります。死と直面することが極めて多い科であるだけに、いろいろなことを患者様から教えていただく機会がありました。片麻痺や言語障害、脳腫瘍で全く耳の聞こえない人など、多くのハンディーを背負った方々がいらっしゃいます。しかし患者様は、見事に力強く生きていらっしゃいました。健在で仕事ができることの幸せや、医師になった根源は何だったのかということなど、教えていただくこともさまざまでした。
女医であるということも、一つの大きなメリットになっていると思います。特に御家族の方にも気軽に話しかけていただき、心の窓を開いていただけたと実感することがあります。
それでも、若い頃は脳の手術ということもあり、女医さんの主治医や執刀医では困るよ、という苦情は山ほどありました。年を重ねるにつれ患者様や御家族との心の信頼が確立されるようになり、それが自信に繋がり、そこから全てに繋がっていくということが分かるようになりました。
仕事はたくさん抱え込め
この機会を頂戴し、私は何事にも正直で真摯な態度で立ち向かうことの重要性をメッセージとして伝えたいと思います。
息まず、肩肘張らず、ごく自然に。そして最後は人間と人間とのお付き合いとして。人間の根源に関わる、生きていることの喜びや充実感を患者様に還元できればと手術や仕事を行って参りました。
今日の脳神経外科は、ガイドライン通りにナビゲーションを用いて脳の決まった場所に到達し手術を行なう、誰にでも出来るかのような時代になってきています。しかしながら手術とは一人一人バリエーションがあり、高いスキルが要求されるものです。
後進の方々にも日頃から修練を積んで技術と知識と勘を磨いていただき、予期せぬ事態にも柔軟に対応できるよう日々精進していただきたいと思います。そして先輩の意見や指導に耳を傾けながら、自信を持って自身のライフワークを全うして下さい。
ある先輩から、仕事は出来るだけたくさん抱え込めと言われたことがあります。一つのプロジェクトのみを抱え込んでしまうと、挫折した時には行き場がなくなるということもあるでしょう。興味あることを幾つも持ち、同時進行で行っていくことも一つの方法です。
私自身、途上国の若手脳外科支援、WFNS(World Federation of Neurosurgical Societies)の教育の現場に立ち、若者らと共に語り合っています。世界の途上国に支援物資やジャーナルなど持って出かけますが、何と嬉しい顔をして迎えてくれることか。もちろん、彼ら若手脳外科医は、物資が無くとも生き生きとして感謝しながら働いています。
それを見るにつけても、こうした活動を通じて男女を問わず、選んだ道を信じて生きていくことの大切さを痛感しています。
これからの脳神経外科を担う若手女医のみなさん、是非一緒に頑張りませんか?
キーワード:脳神経外科女医、ライフワーク、選択科